ヨーロッパ食空間探訪② 〜食空間視点で見るカフェハウス文化〜

オーストリアの無形文化遺産に登録されている「カフェハウス文化(Kaffeehauskultur)」は古くから大切にされています。
絵画、音楽など芸術の街としても有名なウィーンですが、そうした芸術家たちもカフェを第二の自宅のように愛し、単にコーヒーを飲む場としてだけでなく、新聞を読んだり、時には情報交換などサロンの場として利用してきました。
今回は、そんなウィーンのカフェハウス文化を「食空間」という視点から見てみます。
訪れたのは、老舗菓子店としても知られるGerstner K. u. K. Hofzuckerbäcker。
そこには、同じカフェの中にも、過ごし方によって変化するさまざまな食空間の表情がありました。
華やかな空間に溶け込むテーブルの整え方

ウィーンのカフェハウスを訪れると、まず目に入るのが、空間そのものが持つ華やかさです。
重厚感のある壁面、深紅のアンティーク調の家具、大きな鏡や絵画、そして天井から下がるシャンデリア。
ラグジュアリーでありながら歴史を感じるクラシカルな雰囲気が融合する空間は、優雅で居心地のよい空間を作っています。

今回訪れたGerstner K. u. K. Hofzuckerbäckerも、こうしたウィーンらしい歴史的な空間美を感じられる場所のひとつです。
宮廷文化の名残を感じる装飾性の高い建築やインテリアを背景に、カフェや食事を楽しむ場として現在も使われています。
では、これほど空間そのものに装飾性がある場所で、テーブルはどのように整えられているのでしょうか。

「ヨーロッパのテーブルコーディネート」と聞くと、テーブルクロスや食器、花など、テーブル上の装飾を思い浮かべる方も多いかもしれません。
ただ実際に見てみると、テーブル自体はシンプルにまとめられ、テーブルクロスの整え方やカトラリーの配置には、私たちが「整ったテーブル」としてイメージするものとは少し違った印象がありました。

私たちが夕食で訪れたCafé-Restaurantでは、カフェテーブルほどのコンパクトなテーブルに、3人分のカトラリーが並べられました。
日本の感覚では少し窮屈にも感じるサイズですが、壁面やシャンデリアなど、空間そのものが華やかなのに対し、カトラリーやプレートは装飾性を抑えたシンプルなデザインであり、テーブル上のアイテムが過度に主張することなく、全体として調和していました。

前述の通り、カフェハウスは品格がありながらも、人々が第二の自宅のようにコーヒーや菓子を片手にゆっくりと時間を過ごす、日常に寄り添った文化でもあります。
Gerstnerで見たシンプルで気負わないテーブルは、こうした「カフェハウスでの時間を楽しむ日常」というシーンに合わせたものと捉えることができます。
ウィーンのカフェハウスにおける食空間は、テーブル単体で完結しているのではなく、空間や家具、照明、テーブル、器それぞれのバランスが取られ、全体として品格と伝統を演出しています。
歴史ある空間が生み出す、さまざまな食のシーン

Gerstnerの興味深い点は、同じ建物の中に、異なる時間の過ごし方を受け止める空間がつくられていることです。
1階のCafé-Barでは、コーヒーやケーキを楽しみながら、比較的気軽に過ごすことができます。
一方、上階にはCafé-Restaurantに加え、歴史的な意匠を残したいくつかのプライベートサロンがあります。
たとえば「Blauer Salon」は、かつてTodesco家の書斎として使われていた空間。「Salon Strauss」は祝祭空間とつながり、現在はディナーだけでなく、コンサートや朗読などにも利用されています。また、かつての食堂だった「Salon Paris」は、現在ではレセプションなどの場として使われています。

これらの部屋は単に「雰囲気の違う部屋」として用意されているわけではありません。
それぞれの空間が持つ歴史やインテリアの個性を残しながら、同じ「食を楽しむ場所」として、カフェ、食事、会話、音楽、集いなど、その場にふさわしい様々なシーンを演出しています。
壁の色や家具、照明といった空間の作りが変化し、そこにいる人の気分や過ごし方を自然に方向づけています。
Gerstnerの空間構成からは、そんな食空間の考え方を見ることができます。
伝統を暮らしの中で楽しむ食空間

ウィーンのカフェハウスを見ていると、長い歴史を持つ文化でありながら、決して「昔のスタイルをそのまま残している」だけではないことに気づきます。
伝統的な美しさを守りながらも、そこに人々の日常が重なり「暮らしの中で文化を育てる」ことで、文化としての食空間が今も生き続けていることを感じます。

食空間は、ひとつのスタイルを完成させて終わるものではなく、そこに暮らす人々が使い、楽しみ続けることで文化として育っていくものです。
歴史あるものをそのまま再現するのではなく、その土地で大切にされてきた美意識や心地よさを、暮らしの中でどう楽しむか。
海外の華やかなスタイルや形式だけを取り入れるのではなく、すでに持っている文化や美意識、季節感を現代の暮らしに置き換えて、どう次の世代へつないでいくか。
そんな視点を持つことで、テーブルコーディネートの楽しみ方も、また少し広がっていくのではないでしょうか。

FSPJ認定コーディネーター
後藤 友希(YUKI GOTO)




