ヨーロッパ食空間探訪⑤ 〜スイスのマルシェにみる「季節を楽しむ」暮らし〜

スイスのさまざまな街や広場で開かれているマルシェ。
野菜や果物、チーズやパン、そして季節の花々などが並ぶ店先には、季節を日々の暮らしに取り入れるヒントがたくさんありました。
旬の食材や、そのすぐそばに並ぶ生花から、スイスの日常に息づく季節の楽しみ方も見えてきます。
今回は、そんなスイスのマルシェから見えてきた「季節を楽しむ」暮らしを食空間の視点からご紹介します。
スイスのマルシェから感じる、季節の移ろい

今回訪れたのは、チューリッヒ湖の近くビュルクリプラッツ(Bürkliplatz)で開かれるマルシェです。
木々に囲まれた広場には、旬の野菜や果物、色とりどりの生花が並びます。
地元の人たちが店の人と言葉を交わしながら食材を選ぶ姿からも、マルシェが特別な場所ではなく、日々の暮らしに自然に溶け込んでいることが伝わってきました。
「今日は何が並んでいるのだろう」と歩いてみると、その時々の食材に出会うことができます。
決まったものを買いに行くだけではなく、その日に並ぶものを見ながら食卓を考える。
そんな買い物の時間そのものにも、マルシェならではの楽しさがあります。

春にはアスパラガス、秋にはカボチャなど、季節によって並ぶものが変わり、それとともにマルシェの表情も少しずつ変化していきます。
その時々に並ぶ食材に目を向けることから、季節を楽しむ暮らしが始まるのかもしれません。

また、マルシェでは野菜や果物の多くが量り売りです。
必要なものを、必要な分だけ。
旬のものを見て、手に取り、その日の食卓にちょうどいい量を選ぶ。
そんな買い物の様子からも、旬を楽しみながら食材を大切にする暮らしが見えてきます。
季節の移ろいを、カレンダーだけでなく食べものや生花から感じる。
マルシェには、そんな日常の楽しみがあります。
旬の食材を味わい、季節を楽しむ

マルシェの店先には、形も色もさまざまな野菜や果物がずらり。
大きなつぼみのようなアーティチョークや、赤いセロリのような見た目のルバーブ。
春から初夏にかけて旬を迎えるルバーブは、酸味のある茎をジャムやタルトなどに使う食材で、日本ではあまり見かけない野菜のひとつです。

また、季節を感じられるのはマルシェだけではありません。
私達が訪れた6月にはアスパラガスも旬を迎えていましたので、チューリッヒ旧市街のレストラン「ツンフトハウス・ツア・ヴァーク(Zunfthaus zur Waag)」で、白アスパラガスを使ったお料理をいただきました。

日本では彩りを添える野菜として使われることも多いアスパラガスですが、今回いただいたのは、白アスパラガスそのものを主役にした一皿。
オランデーズソースを合わせ、ポテトや生ハムを添えた、旬の野菜のおいしさをシンプルに味わえるものでした。

訪れたレストランは、かつて同業組合の集会所として使われていた歴史ある建物を利用しています。
紋章が描かれたステンドグラスやクラシカルな室内装飾に、白いクロスを使ったテーブルセッティングが調和した、落ち着いた食空間が印象的でした。

そのほかにも野菜をたっぷり使ったサラダやビュッフェなど、野菜が主役になるような料理を目にする機会がありました。
赤や黄色、緑など、色とりどりの野菜が並ぶ様子は、それだけでも華やか。
旬の食材は、味わうだけでなく、その色や形でも季節を感じさせてくれます。

スイスで暮らしていると、毎年同じ時期に旬の食材が店先やメニューに登場し「今年もこの季節がやってきた」と感じることがあります。
毎年楽しみにできる食材があることも、季節とともに暮らす楽しさのひとつです。

旬の食材を料理に取り入れ、いつもの器に盛り付ける。それだけでも、食卓には自然とその時期らしさが生まれます。
食空間というと、器やクロスなどを整えることに目が向きますが、季節の食材そのものも食卓を彩る大切な要素です。
マルシェに並ぶ野菜の色や形を見ていると、旬を味わうことと、季節の食卓をつくることは、ひと続きなのだと感じます。
季節の生花を飾る、スイスの暮らし

そして、今回訪れたマルシェでもうひとつ目を引いたのが、野菜や果物と一緒に季節の生花が並んでいる風景です。
食べるものを選ぶすぐそばに、季節の花がある。
そんな様子からも、花を飾ることが特別な日のためだけではなく、日々の暮らしに身近なものであることがうかがえます。
夕食のための食材と一緒に、その日気に入った生花を一束。
食べるものを選ぶのと同じような感覚で花も選べることが、暮らしの中で花を楽しむきっかけになっているように感じます。

現地で目にしたテーブルも、大きな装飾を施すのではなく、少量の生花をさりげなく取り入れたシンプルなコーディネートが印象的でした。
季節の生花を数本飾るだけでも、いつもの食卓の表情は変わります。
「食べること」と「飾ること」を一緒に楽しめるのも、マルシェの魅力のひとつ。
今日食べたいものと、飾りたい花を選び、その季節を家へ持ち帰る。
そんな小さな楽しみの中に、日々の食卓から季節を楽しむヒントがありました。

FSPJ認定コーディネーター
岡崎 清美(Kiyomi)




