
毎日の食卓で、何気なく手にしているスプーンやフォーク、ナイフ。
テーブルウェアのデザインにこだわっても、「カトラリーによって料理の感じ方まで変わる」と意識したことがある方は、意外と少ないかもしれません。
今回FSPJ ACADEMYでは、新たなパートナー企業として、新潟県燕市で1918年創業以来100年以上にわたりカトラリーづくりを続ける山崎金属工業株式会社様をお迎えしました。
世界の舞台でも認められてきたものづくりの背景には、見た目の美しさだけではない食べる人の感覚にまで踏み込んだ独自の哲学があります。
今回は、山崎金属工業様のものづくりへの想いと、FSPJACADEMYメンバーが実際に参加した「スプーン比較体験会~比べてみよう!使いごこち~」でのスプーンの口抜け体験を通して、普段はなかなか意識することのないカトラリーと美味しさの関係をご紹介します。
ノーベル賞晩餐会にも選ばれた、日本のカトラリー

スウェーデンの食文化から、魚用カトラリーを際立たせた「ノーベルオリジナルカトラリー」
山崎金属工業株式会社は、1918年創業、金属加工で日本有数の産地である新潟県燕市に拠点を置く老舗カトラリーメーカーです。
その技術力が世界的に知られる大きな契機となったのが、1991年ノーベル賞創設90周年記念晩餐会でのカトラリー採用でした。
体験会でその採用の背景を伺い、さらに詳しく調べてみました。
ノーベル財団は、90周年を機に晩餐会の会場を市内のホテルから市庁舎へ移すことを決定しました。それに伴い、テーブルウェアも一新されることとなり、
そのデザインを担った一人が、スウェーデンのクリスタルガラスメーカー「Orrefors(オレフォス)」社の専属デザイナー、ゴナ・セリン氏でした。
晩餐会のテーブルウェアには、見た目の美しさだけでなく、長時間のサービスに耐える機能性や、世界各国の賓客が違和感なく使える操作性も求められます。
その条件を満たすために、セリン氏は、30年来の信頼関係を築いてきた日本の山崎金属工業株式会社をカトラリー開発のパートナーとして推薦しました。
彼は同社を「高い技術力とコミュニケーション力を持つメーカー」と評価し、デザイン意図を精度高く具現化できる存在として国境を越えた協働を選んだのです。

YAMAZAKI PREMIER COLLECTION 独創的なニューヨークコレクションから厳選
ノーベル賞創設90周年記念晩餐会に山崎悦次会長夫妻が招かれた際には、同じテーブルに着席した来賓から 「この洋食器は大変素晴らしい」 と直接賞賛の言葉が寄せられたといいます。その時の感動は、同社の公式ホームページにも記されています。
究極は「テーブル上の姿は印象的でありながら、口に運ぶと存在感を意識させない」カトラリー

熟練した職人が丁寧に作り上げるハイクオリティーなカトラリー
美しいデザインは、食卓を華やかにしてくれます。しかし、山崎金属工業株式会社が考えるカトラリーのゴールはその先にあります。
ナイフが思うように切れない・・・
フォークがうまく食材に入りにくい・・・
スプーンを口から抜くときに、わずかな引っ掛かりを感じる・・・
一つひとつは小さなことですが、こうした無意識のストレスが、料理を味わう感覚を妨げてしまいます。
だからこそ追求されているのが、手にしたときの重さや前後のバランス、食材に入る角度、口に触れたときのなめらかさ、そして「磨き」です。
同社では、スプーンの違いが与えるストレスの違いを脳波測定されており、その数値に驚かせられました。
一般には完成品として同じように見えるカトラリーでも、仕上げの工程によって、口当たりや舌触り、さらには金属特有の感覚まで変わるといいます。
山崎金属工業株式会社の製品は、多くの工程と職人の手を経て丁寧に仕上げられています。
そこにあるのは、「デザイン性ばかりを主張する道具」ではなく、「視覚的な美しさに加えて、使っていることを忘れるほど自然に料理と人をつなぐ道具」をつくりたいという考え方です。
私たちが普段考える「良いカトラリー」の基準を少し変えてくれるお話でした。
違いは、説明されるより「口」でわかる ~ FSPJコーディネーターが「スプーン比較体験」へ

今回、FSPJ認定コーディネーター宇田川聡子とともに白川えり子が、山崎金属工業様が新宿OZONEにて開催された「スプーン比較体験会~比べてみよう!使いごこち~」に参加しました。
当日はまず伝統ある会社の歩みのご説明に感銘を受けた後、いよいよカトラリー”口抜け体験”です。

カトラリー “口抜け”体験では、①山崎金属工業様のもの ②普及版を磨いたもの ③普及版 と3本のスプーンを使ってゼリーやプリンを試食。
口に入れたときの感触だけではなく、スプーンを口から抜く、その一瞬の感覚を比較します。実際に試してみると、これが想像以上に違います。
あるスプーンではわずかな抵抗を感じるのに、丁寧に磨かれたスプーンは驚くほど自然に口から抜けていきます。
同じ形状のスプーンを磨き直した比較でも使用感が変わることから、「磨き」が単なる見た目の美しさのためだけではないことを体感できまました。
さらに、寒天のような繊細な食材を使った実演では、カトラリーが食材に与える負担の違いも紹介されました。
また、3本のスプーンは一見すると大きな違いはありませんが、持ってみると、重さやバランスによる心地よさの違いも実感しました。
参加したメンバー間では、「説明を聞くだけではなく、実際に体験することで初めて納得できた」
「作り手の想いや商品の背景を聞きながら体験すると、商品への愛着が深まる」など話しました。
また、「プリンやゼリーだけではなく、さまざまな食材で試してみたい」
「スプーンだけでなく、フォークやナイフまで体験できれば、カトラリー全体への理解がもっと深まりそう」という意見も出ました。
知識として理解することと、自分の五感で理解することは違う。それを改めて実感する時間となりました。

手磨き体験で作成した参加メンバーオリジナルスプーン
開催された7月12日は「洋食器の日」ということで、「好みの文字やデザインを選び、手磨きによりカトラリーを作って持ち帰る」という貴重な体験もできました。
カトラリーを「最後に選ぶもの」から、食体験をつくるものへ

食空間を考えるとき、器やグラス、インテリア、照明などに比べて、カトラリーは最後に選ばれることも少なくありません。
しかしながら、料理を口へ運ぶ際に必ず介在するものがカトラリーであり、
実は料理と人をつなぐ、最も身体に近いテーブルウェアのひとつであることに、はっとさせられました。
FSPJ ACADEMYでは今後、新たなパートナー企業である山崎金属工業様とともに、ACADEMYだからこそできる学びと体験、そしてカトラリーと食空間の新たな可能性をテーブルコーディネートコミュニティーにも発信してまいります。
器、料理、空間、そしてカトラリー。
それぞれを単独で考えるのではなく、そのすべてがつながったときに生まれる「食体験」を考えていきたいものです。


FSPJ認定コーディネーター
白川 えり子(ERIKO SHIRAKAWA)




