継続可能なモノづくりを。山中漆器を次世代へ繋ぐためにできること~我戸幹男商店~

テーブルコーディネートEXPO2024でコーディネーターとのコラボレーション展示をされた、FSPJ ACADEMYパートナー企業様の紹介を連載しております。
―――
モダンなデザインの山中漆器として人気の高い「我戸幹男商店」。
未来の伝統工芸を支える若い職人の育成や、継続可能な産業としての新しい素材を取り入れた器づくりまで、圧倒的なビジュアルのモノづくりを支える「人」と「素材」ついてお伺いします。
テーブルコーディネートEXPO2024展示「漆のモノクローム+Plus」

伝統を受け継ぎながら、スタイリッシュで新しいデザインの漆器を生み出している、山中漆器「我戸幹男商店」。
FSPJアカデミーでは、これまでも社長インタビューやSNSでのコラボライブを通じて、その開発ストーリーや想いをお伺いしてきました。
◆美しい木目に裏打ちされた山中漆器の技術やデザイン、開発ストーリーについてインタビューした動画はこちら→★
◆TC-EXPO企画:商品の魅力やこだわりについてのコラボライブはこちら→★

テーブルコーディネートEXPO2024では、食空間プランナー河野浩子氏とのコラボレーション「漆のモノクローム+Plus」を展示されました。
コーディネートのメインとして使われているのは、木地の色を生かしたPlainとスタイリッシュなBlackの2色を主軸に構成された、モダンなデザインの漆器たち。
極限まで色を搾ったコーディネートは、まさに漆の世界での「モノクローム」の世界感が表現されています。

我戸幹男商店の器は、「いつでも買える身近な商品」ではなく、「知る人ぞ知る特別な器」として展開している、と我戸正幸現社長はおっしゃいます。
そこには、伝統的な高い技術力に裏打ちされながらも、現代の感性を取り入れた我戸幹男商店らしいモダンな器を、大切に長く愛されるブランドとして育てていきたいというこだわりの姿勢が表れているようです。
今回の出展でも、「他のイベント等では見たことが無い」という来場者の声をたくさんいただいたそうで、プロコーディネートだけでなく、器好きの一般のお客様も、ブランドへ高い関心を寄せられていたのが印象的でした。

シャンパーニュやワインといったお酒を飲むことをイメージして作られたTOHKAシリーズは、光にかざすと透けて見えるほど薄い様「透過」から名付けられています。
その繊細でなめらかな触り心地や、限りなく細く均一に削られたステムと相まって、視覚から食を楽しむ新しい器として注目が集まりました。
この薄さを実現する、山中漆器の特徴的な技術である「山中挽き」は、芸術的・工芸史的価値が高いことから、石川県の無形文化財にも指定されているそうです。
技術の結晶として生まれたTOHKAシリーズに、コーディネーターや器好きの皆様から高い関心が寄せられていました。
モノづくりの環境改善。若い職人を育てる「我戸幹男研究所」

素晴らしい器を生み出す我戸幹男商店ですが、以前のインタビューに際し我戸社長は、作り手たちの多くが高齢化している一方で、その技術を繋ぐ若い人材が少ないという現状について、懸念を口にされていました。
これまでのモノづくりの現場は、空調などの設備もなく、いまだに過酷な環境での作業をせざるを得ない工房も多いそうです。
そのような現状の中で、次世代の若い人たちが山中漆器産業の承継に継続して取り組んでいくことを望み、作られたのが「我戸幹男研究所」です。

こちらの研究所は、若い世代の職人の育成をはじめ、女性や高齢者などを含めた多様な人材の活用を視野に入れて作られています。
各工程毎に仕切られたスペースはガラスで製作された仕切りにより分けられており、閉塞的な工房内を開放的に見せているほか、各工程がエントランスから全て見学できるよう設計されています。
この開放的な空間は、構想段階からデザイナーや設計士など「モノ」づくりのプロフェッショナルから多くの意見を取得し、妥協することなく、多くの改善を重ねて作り上げられてきたそうです。

我戸幹男研究所は、これまでの業界で当たり前とされてきた過度な長時間労働を是正し、適正な雇用形態を確立、充実させることを研究所の主な役割と定めて日々運営されています。
未来の山中漆器業界を支える職人を目指す人たちが、無理なく継続可能な環境で技術を磨き、その「モノ」づくりを通じ、技術や伝統の継承といった「コト」づくりにも向き合える環境を整える。
素晴らしい技術を後世につなぐためのひとつの答えとして、我戸幹男研究所はこれからもアップデートされながら進化し続けることでしょう。
継続可能な商品作りへ、新素材「MIRAI WOOD®」を使った新しい取り組み

「人」の環境改善に取り組む一方で、「素材」に関する新たな取り組みにも積極的に着手されています。
昨今の漆器業界は、木材価格の高騰と品不足(ウッドショック)により大きな影響を受けており、材料の安定的な入手が困難になることで、職人への継続的な仕事の提供も難しくなってきているという現実があるそうです。
そんな現状に対応するひとつの提案として、漆器の廃木粉から作られた「MIRAIWOOD®︎」は、我戸幹男商店が菱華産業株式会社と共同開発した新素材です。
◆MIRAIWOOD®︎の詳細はこちらからご覧いただけます→★

これまでの漆器の製造過程では、原木の9割以上が廃材として廃棄されてきたそうですが、その資源を有効活用した新素材を、山中漆器の技術を生かして伝統工芸品として生まれ変わらせることに成功。
それにより、木材不足問題の解決にも貢献でき、何より安定した材料供給が可能になったことで、職人が安心して働ける環境づくりにもつながっているそうです。
「人」と「素材」の両方から、継続的なモノづくりを可能にし、伝統工芸である山中漆器を未来へ繋ぐ我戸幹男商店。
圧倒的なビジュアルを生み出すその背景にも、ぜひご注目ください。


食空間プロデューサー/ FSPJスクール銀座校講師
伊藤 裕美子(YUMIKO ITO)