
南青山は、かつて徳川家重臣の「青山家」が屋敷を構え、周辺には根津美術館や骨董通りといった伝統の面影を感じられる場所。
現在は、ハイセンスかつハイエンドなショップなど、トレンドを発信し続ける街として人気のエリアです。
そのような伝統と最先端が融合した南青山に、イタリアのインテリアブランド、「カルテル東京」があります。
今回は、カルテルにある数々の美しいインテリアの中でも最も有名な椅子のご紹介と、設立当初から変わらないデザインの本質ついてご紹介したいと思います。
様々な食空間を彩るデザイナーズチェア

カルテル社は1949年にイタリアのロンバルティア州で創立され、化学者ジュリオ・カステッリ氏によって設立されました。
ノーベル化学賞を受賞したジュリオ・ナッタ氏の下でプラスチックの研究をしていたカステッリ氏と、
奥様でデザイナーであるアンナ・カステッリ・フェリエーリ氏の夫婦は、
軽量で耐久性に優れ、木材では実現が難しかった高度な加工性を兼ね備えるプラスチック素材に着目し、
世界的に有名なデザイナーらと共に、芸術的で実用的、そして革新的なインテリアデザインブランドとして、
世界中にカルテルの名を馳せています。
なぜカルテルは椅子に力を入れているのでしょうか。
カルテルが数々の名作の中で最初に発表したのは、なんと子供用の椅子でした。
本社のあるロンバルティア州の州都ミラノは天気の移り変わりが激しく、晴れていても突然の雨が降り注ぐこともあるそうです。
発表された1964年の当時、当時の人々の想像以上の雨量となった際の事を考慮して、子供たちが逃げ遅れることのないように、水に浮く子供椅子をデザインしました。
軽くて強度のあるプラスチックの椅子は、浮き輪の代わりになるだけでなく、自分でパーツを組み立てられたり、自由に重ねられる積み木のような教育玩具としてもデザインされ人気を博したのが、カルテルの椅子の始まりです。
それから約50年以上に渡り、衝撃に強く、耐久性に優れ、持ち運びが便利で軽量なプラスチックの椅子は、世界的に著名なデザイナーたちによって美しいフォルムと座り心地の良さ、また様々な用途を考えられた作品を発表し続けています。

カルテル東京には、スタイリッシュで美しい佇まいの椅子が数多く展示されていました。
その中でも、食空間を彩るおすすめのデザイナーズチェアをいくつかご紹介します。
まずはカルテルで最も人気のある「マスターズ」。
デザインしたのは、浅草アサヒビールにある金のオブジェ(フラムドール)を手がけたフィリップ・スタルク氏です。
カルテル東京のショールームの扉を開けると最初に目に飛び込むのは、整然と並び気品さえ感じられる美しいフォルムのマスターズ。
先人がデザインしたダイニングチェアの名作である、シェルチェア、セブンチェア、チューリップチェアのアウトラインをミックスさせたフォルムは、スタイリッシュな空間にも、エレガントな空間にもマッチします。
またアート感のある近未来的なデザインの造形美は、オブジェとして飾っておくのにもオススメのアイテムです。

食空間プロジェクトでは、ブライダル産業フェア2019にて、「森の中で行う上質で優雅な大人のウェディング」をテーマとした空間演出にも使用いたしました。
また、FSPJ銀座本校でも使用しており、FSPJスクールでは椅子を使ったトータルコーディネートの実習も行っております。

透明なカラーが魅力の「ルイゴースト」と「ヴィクトリアゴースト」。
こちらもフィリップ・スタルク氏のデザインです。
「ゴースト」という変わったネーミングの通り、「目に見えない幽霊のような椅子」という意味で名付けられたそうです。
また、ルイ、ヴィクトリアという名前も、フランスのルイ15世や大英帝国のヴィクトリア女王から取られており、当時のバロックスタイルを現代風にアレンジしています。
透明なため、光を部屋の奥まで通しやすく、空間全体を広く見せる効果だけでなく、どんな空間にも馴染むことができる優れもの。
背もたれが高いとそれだけで圧迫感があり、素敵に飾ったテーブルの上も隠れてしまいますが、
透明であれば、他のインテリアやテーブル上のディスプレイなどを遮ることなく、空間全体を演出できるのです。
美術館やウェディング空間でもよく利用されるとのことでした。

最後にご紹介するのは伝統工芸を模した「アミアミ」。デザイナーは、吉岡徳仁氏です。
日本の伝統文化、織物のように見える「アミアミ」の名前の由来は「編む」からきており、伝統工芸の籐をプラスチックで表現しているそうです。
近くから見ると、籐を編んだときにできる隙間まで忠実に再現されていました。
細部にまで拘る繊細なデザインは、平面的に見えるプラスチックアイテムに動きが生まれ、まるでクリスタルガラスのような美しさです。
「伝統と最先端の融合」、そこに隠されたカルテルの想い
これらのデザイナーズチェアには、「伝統と最先端の融合」という共通したコンセプトを感じ取ることができます。
マスターズをデザインしたフィリップ・スタルク氏は、
「先人のデザインに敬意を表し、古いものから新しいものを生み出す。これこそが、進化だ。」と考えているそうです。
最先端技術で作られたモダンなカルテルの椅子は、クラシカルな空間にも調和します。
その理由は、歴史的建造物で溢れたイタリアの街から生まれているからなのだそうです。
例えば、古民家を舞台にした富山にあるカルテルショップには「アミアミ」や透明なアイテムが並べられており、
忘れかけている日本の建築をモダンに生き返らせたような優美さは、部屋全体に優しい光が放たれているかのようです。
カルテルの椅子がクラシカルな空間をモダンで洗練された世界へと導くのには、
伝統を大切にし、そこに敬意を払っているデザイナーたちの想いがあるからなのかもしれません。
美しいデザインに裏付けされた環境への配慮
カルテルのショップに行くと、独創的で遊び心のあるフォルムにばかり目を奪われてしまいますが、
商品を作る上で、カルテルが設立当初から変わらないデザインの本質があるとのこと。
それは、環境への配慮。
カルテルの椅子は、美しいフォルム、座り心地、強度、耐久性、軽量など様々な特徴がありますが、それらは全て使う人を思ってのデザイン。
今私たちの社会は、エコ、エシカル、サスティナブルといった地球を守る行動が重要視され、最近ではあらゆるところで目にすることができますが、カルテルは設立当初から環境を考えた商品計画がなされていました。
例えば、強度や耐久性に力を入れているのは、何十年と長く使い、リサイクルに回す量を極力少なくするためだそうです。

また、以前に食空間チェアのコラムでもご紹介した、無駄のないシンプルなデザインの「A.I.」は、
快適な座り心地や強度を人工知能A.I.が導き出した椅子で、100%リサイクルプラスチックを用いて、素材も環境を考慮されています。
さらには、材料を最小限に抑える制作工程やA.I.を用いることによる制作時間の短縮までもが、エコを考えたデザインとなっているのです。

他にも、土に還る循環型の家具や、間伐材を用いた木製のインテリアなど、プラスチックに拘ることなく、カルテルの最新技術を駆使して常に時代の先を行く取り組みを行っているそうです。
カルテルのインテリアは、伝統に敬意を表しつつ新しいものを創造し、未来を見据えた行動があるからこそ、美しいデザインが生まれていたのです。
今回ご紹介した椅子の他にも、食空間を演出するプラスチック素材のアイテムがたくさん揃っていました。
是非ショップへ足を運び、最先端技術が生み出すアイテムの一つひとつから、デザイナーたちの想いを感じてみてください。


FSPJ認定コーディネーター
石井 さやか(SAYAKA ISHII)