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  3. 陶石の島から陶磁器の島へ〜熊本・天草の窯元巡り

熊本県天草市は、熊本空港から天草エアラインで15分、または車で2時間程の距離にある自然と歴史・文化の豊かな街です。
九州本土と5つの橋で繋がる観光リゾート地として古くから親しまれ、大小120余の島からなる天草には、多くの観光スポット・空港・窯元様があり、中心地となっているのが「下島」です。

南蛮文化やキリシタンの歴史・海山の幸・天草陶石とその魅力は幅広く、海の美しさは、平成17年N H K大河ドラマ「武蔵」のロケ地、古くは昭和47年放映のN H K連続T V小説「藍より青く」の舞台となったことでもご存じの方も多いでしょう。

今回は、天草の魅力の数々を、地元出身FSPJ認定コーディネーターの視点からご紹介いたします。

天草の歴史に触れる世界遺産「崎津集落」〜上田資料館

2018年7月、天草市河浦町の「崎津集落」が世界文化遺産に登録されました。(正式名称:「長崎と天草地方の隠れキリシタン関連遺産」)

1569年に建てられ、以後何度か立て直しをされているゴシック様式の「崎津天主堂」は、堂内が畳敷きになっている、とても珍しい建物です。

世界文化遺産登録に向けて、この15年間で狭かった道は整備され、数々の関連施設も新しく建て増されました。

その一つ一つをゆっくりご覧いただくことで、崎津集落へのご理解がより深まるものとなっています。

崎津天主堂を出て順路通り進んで行きますと、昔ながらの小さな路地もそのままで、家々の脇の小道(トウヤ)の先には美しい海も覗き見え、崎津の特徴ある風景の一つとなっています。

2022年度のグッドデザイン・ベスト100にも選ばれた、「景観づくり:崎津・今富の文化景観整備」崎津集落の街並みに溶け込む崎津天主堂のグレーの外観と穏やかな内海との調和の美しさを十分感じていただけるものと思います。

崎津天主堂から車で東に10分進んだ所に、是非足を運んでいただきたい「上田資料館」があります。こちらは文化庁の有形文化財になっています「上田家庄屋屋敷」に併設されているものです。山を背景に建つその風景は、澄んだ空気も手伝い、まるで切り取った1枚の絵のようです。

上田資料館について、ご紹介させていただきます。

上田家第6代目伝五右衛門武弼は、1662年に天草陶石が発見された際、それが陶磁器原料として最も優良なことと知り、江戸時代当時、産業の乏しかった天草の村の生計を支えようと、苦労をして陶業を起こしました。

資料館にはその歴史を物語る、2300点余りの古文書と器が多数展示されています。

オランダとの貿易が行われていた様子なども伺え、天草の陶磁器の歴史を深く知ることができるのではないでしょうか。

また、拝観後には、お隣の寿芳窯 様にも足を運んでいただきたいと思います。

大きな壺から日常に使える器まで多数展示販売されており、特に現在人気の江戸復刻シリーズの「海松紋」は、色も種類も年々増え続けており、その全てが見られるのは窯元ならでは。お土産に購入される方も多いのだそうです。

天草の窯元を巡る

春から秋にかけて、幾つもの「天草窯元めぐり」が開催されます。

現在、天草には30以上もの窯元様があり、1日では到底まわることはできないものですが、お好きな窯元様を季節ごとに楽しんでいただくのも宜しいかと思います。

今回、その中の幾つかの窯元様にお話をお聞きすることができましたので、器と併せてご覧ください。

鬼池焼 光窯様
ドミニカ共和国で2年間、陶磁器の教鞭をとられたというご経験を天草の海に準え、ブルーの色や魚の絵などユニークな作品づくりをされています。

特に目を引いたのがその形や取手に特徴のあるお鍋で、色も絵柄も様々なものがあり、これからの季節にぴったりです。

陶丘工房様

天草の窯元の一つ、丸尾焼で18年の修行を重ねられた後独立。オープン時にはお店で音楽L I V Eを行われたたそうです。窯元めぐり時には、来場されたお客様に全て、お店の器でお茶とお菓子が振る舞われます。

天草陶楽庵様

店内には様々な形や大きさの飯椀があり、全てお客様のお声を反映して作られているとのこと。

季節柄、柿の実色から枯れ葉色のとても珍しいグラデーションの器が特に目を惹きます。

陶芸教室を主宰されており、ろくろ体験もできるそうです。 

天竺窯様

西遊記になぞらえて、天草下島の最高峰の山として天竺と位置付けられたこの地域の麓にあり、小学校の木造校舎を利用した窯元。

深みのある色からパステルカラーの器まで、幅広い色展開をされているのが特徴です。

水の平焼・器峰窯

1765年創業。1910年、ロンドン「日英博覧会」にて、ティーセットが銅賞を受賞されています。
粘土を掘るところから、土灰やわら灰の釉薬も全て手作りされ、伝統を継承しつつも時代の新しさに工夫されているそうで、白磁に絵付けされた磁器の数々を展開されているのも特徴です。

海鼠色の色艶が息を呑むような美しさです。こちらのお皿は東京の「無印良品青山」でも販売されています。

 

1日で沢山の器に出会える「天草大陶磁器展」

1日でたくさんの器に出会えるのが、熊本県下最大イベントとして今回第18回目となる「天草大陶磁器展」(展示即売)が2年ぶりに開催されました。( 11月2日(水)〜11月6日(日) )

開催初日の「天草陶磁器の島づくり協議会会長金澤一弘(五代丸尾焼 )氏による「過去20年間の陶芸の産地化づくり」基調講演を皮切りに、3日には東京藝術大学長日比野克彦氏によるワークショップなどが開催されました。

現在「天草陶石」の全国シェアは8割と言われ、有田焼や瀬戸焼に使用されています。

その良質なことは江戸時代の発明家平賀源内をして「天下無双の上品」と「陶器工夫書」に記されています。

 20年前、まだあまり知られていなかった「天草陶磁器」の知名度を高め、天草地域の文化・産業の発展を図ることを目的に、1999年「天草陶磁器振興協議会」が設立されました。

そこで「陶石の島から陶磁器の島へ」をスローガンに取り組まれて来たことが、今では訪れる人々の数が2万人を超えるほどの大きなものとなったようです。

当初八つだった加入窯元様も、現在では十の窯元様(水の平焼、丸尾焼、高浜寿芳窯、天草創磁 久窯、陶房泰、内田皿山焼、息峠窯、陶丘工房、蔵々窯、洋々窯)に増え、平成15年には、天草陶磁器は「伝統工芸品」に指定されています。

今回全ての窯元様のご紹介には至りませんが、天草陶磁器は、日常の食卓に使う器として様々な色柄や形の器が作られていること、天草の土や天草陶石、釉薬も窯元様オリジナルのものが多く使われていること等もわかりました。

陶器と磁器、また一見陶器に見えながらも、天草陶石を素地にした磁器であるものなど、本当に手間暇を掛けたオリジナリティ溢れるものばかりです。

皆様にも天草へのご理解・ご興味をお持ちいただき、素敵な器を見つけていただければと思います。

担当コーディネーター

FSPJ認定コーディネーター
金子 友子(TOMOKO)

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