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2023.04.10

レトロ建築探訪〜大正から昭和初期の建築を訪ねて③〜

訪れるとタイムスリップしたような気持にさせてくれるレトロ建築を探訪するコラム。
大正から昭和初期に建てられた名建築紹介最終回は、戦前の都市型銀行をそのままタイムカプセルのように包み込んだ「千葉市美術館」です。

昭和初期建築のタイムカプセル

千葉市中央区にある千葉市美術館は1995年に建てられ、2020年にリニューアルオープンしました。
美術展の他に市民が楽しめるアトリエなど、地域密着型の施設にもなっていて人々に親しまれています。
道路越しに眺める建物は丸柱とアールデコ調のデザインがモダンな印象ですが、内部に入ると昭和初期の石造りの柱や壁が登場し、まるでタイムカプセルのような印象です。

このレトロな建物は、昭和2(1927)年に竣工の「旧川崎銀行千葉支店」でした。

もともとあった建物は関東大震災により一度焼失したため、鉄筋コンクリート造の耐震・耐火構造で昭和2年に建て替えられました。

設計は本格的にヨーロッパで建築を学んだ建築家 矢部又吉で、他にも佐倉市立美術館なども手掛けています。

 

戦前の都市型銀行建築の特徴でもある「ネオルネッサンス様式」を旧川崎銀行千葉支店にも取り入れました。

千葉市内には昭和初期の時代の特徴をとらえた建物がほとんど存在せず、この建物は貴重な文化遺産であり千葉指定文化財にもなっています。

画像:「伝統の再生と時代の創造」(千葉市1995年)より

それにしてもどのようにして現代建築の中に昔の建物を包み込んだのでしょうか。

それにはレールとコロ、巨大なジャッキを使う 「曳家(ひきや)工法」を採用しました。

曳家工法とは「解体せずに移動だけで元の位置に戻す」という江戸時代から伝わる技です。

そして、このように古い建物を新しい建物で包み込むことを『鞘堂(さやどう)方式』と言い、中尊寺金色堂などが代表例となっております。

旧川崎銀行千葉支店外壁 イオニア式柱

建物を見上げると柱の群れが圧巻。

柱頭部のぐるぐると渦をまく装飾は「イオニア式オーダー」(オーダーとは柱の構え)と言い、古代ギリシャのパルテノン神殿や日本でも迎賓館赤坂離宮などでも見ることができます。

壁には花崗岩が使用されたり、銀行らしい重厚なドアの造りですが、イオニア式の曲線的なフォルムや細かなレリーフなどによりエレガントさも漂います。

さや堂ホール

旧川崎銀行千葉支店の内部は、前述の「鞘堂方式」にちなんで『さや堂ホール』と名付けられました。

さや堂ホールは大切に保存するのみならず、一般の方も展覧会やミニコンサートなどに利用することができます。会場としてはとても贅沢な空間ですね。

 

ドリス式柱

ホール内部も外部と同様に柱が中心となったデザインで、10本のドリス式オーダーの柱(簡素な四角形の柱頭を持つ)が堂々と立っており、柱下部には石の土台がどっしりと支えています。

ドア廻りには外部同様に渦巻飾りの優雅なイオニア式の柱も配されています。

イオニア式柱

床に貼られたモザイクタイルも大きな魅力です。
タイルのボーダー部分は建築当時から保存されているドイツ製のもの。
柱中心の堂々とした緊張感あふれる空間に、リズミカルな幾何学模様とシックな配色のモザイクタイルが柔らかさを加えています。

建築当時から保存されている扉や腰羽目板(腰壁)は時を経て飴色に輝き、白い柱とのコントラストが美しいです。

また、戦時中に供出されたと思われるブロンズのブラケット照明(右上)や2階回廊の手摺などは、昭和2年竣工当時の写真を元に復元されたそうです。
ブラケットの一種「モディリオン」と呼ばれる壁の装飾にも、柱と同じく古代ギリシャ建築のモチーフが使われています。(右下)

モダンデザインとの調和

ホール内にはモダンなエレメンツも加えられています。
新たにデザインされたシャンデリアはとてもスタイリッシュですが、シャンパンゴールドの光がクラシックなインテリアと調和し、天窓からさし込む光と共にホール内を明快な空間にしています。

また、リズミカルに高さを変えた照明器具の吊り下げ部分(ペンダント)は柱の直線と連動し、天井を高く見せる効果もあります。

その他にも、ホールの両サイドには「イームズチェア」がさりげなく置かれていて、色や素材を合わせているので違和感なく存在しています。
このようにモダンデザインと調和することで、クラシックな空間が現代の私達にも馴染みやすく、コンサートや展覧会を開く人々も使いやすいではないでしょうか。

さや堂ホールの傍には、ホール見学や上階の美術展などの後にほっと一息付けるカフェ「Café de Seizan」があります。
カフェにもイームズチェアが使われたり、「柱」がデザインの一部になっていたり・・とさや堂ホールとデザインが連動している点にも注目していただきたいです。
また他の階にもレストランなどもありますので、美と食を楽しむ施設として、千葉市美術館を訪ねてみてはいかがでしょうか。

 

千葉市美術館
https://www.ccma-net.jp/

※『さや堂ホール』はイベントなどで貸し切りの時は見学ができませんので、見学の際には事前にお電話にて確認が必要です。

コラム担当

FSPJ認定コーディネーター
田中 宏美(HIROMI TANAKA)

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