訪れるとタイムスリップしたような気持にさせてくれるレトロ建築を探訪するコラム。
大正から昭和初期に建てられた名建築を紹介する第2回目は、東京大学発祥の地に立つ、重厚ながらもアットホームな雰囲気が魅力的な「学士会館」です。
学士の社交施設~学士会館~
学士会館の「学士会」とは主に旧帝国大学(北大・東北大・東大・名大・京大・阪大・九大)出身者からなる同窓会組織のことです。
学士会館は会員の親睦をはかる社交施設として、東京大学発祥の地である千代田区神田錦町に1928年(昭和3年)に建てられました。
現在では会員以外でも、会合や婚礼、宿泊、食事などに利用することができる施設となっております。
建物は、関東大震災の教訓を生かし、当時としてはきわめて珍しい耐震・耐火の鉄骨鉄筋コンクリート造で、最初に建てられたのが旧館、1937年(昭和12年)に増築された部分が新館となります。
外壁はスクラッチタイルが貼られており、角のカーブが特徴的な外観。
半円の大アーチの玄関がとてもインパクトがあり格調高い印象です。アーチに施されたオリーブの木の装飾は「英知の象徴」とされ、知識交流の場としての存在感が感じられます。
アーチの手前、左右に配された「大灯篭」は戦時中の金属供出でオリジナルは失われたそうですが、2003年に復元されました。学士会館は同じ2003年に国の有形文化財の指定を受けています。
邸宅のようなくつろぎ
設計は、川奈ホテルや芝パークホテル、帝国ホテル新館など数多くのホテルや邸宅を手がけた高橋貞太郎です。
高橋は、学士会館建築のコンセプトを「会員の戻るべき家」とし、家庭のような親しみやすさ、落ち着きのある演出を心掛けたとのこと。
そのエッセンスは随所に見られ、玄関内部は建物に対して小さく、間取りでは1階が会員の居間、2階が来客用、3階が書斎、4階が寝室となっていて、いつでも迎えてくれるアットホームな造りです。
階段広間でひときわ目を引く、十二角で鋲でとめたような造りのモダンな柱は、大正時代頃から人気のあった『セセッション様式(ドイツ語圏のアールヌーヴォー)』の影響を受けていると言われ、邸宅建築の落ち着いた雰囲気の中でシャープでモダンなアクセントになっています。
多くのホテルや邸宅を手掛けた高橋貞太郎だからこそ、さまざまな配慮やテクニックがちりばめられ、邸宅のように自然にくつろげる空間を生み出したといえるでしょう。
伝統が息づくボールルーム
アットホームな玄関ホールや談話室から、がらりとイメージが変わる大空間は、もともとは旧客間や談話室などでしたが、現在では結婚披露宴やパーティーなどに使用されています。
なかでも旧御客間の「201号室」は学士会館の伝統が息づくボールルームであり、当時の姿を色濃く残しています。
高い天井や窓の美しい装飾やカーテンがとても豪華で、会場奥にはオーケストラバルコニーが設置され、当時の晩餐会の華やかさを物語っています。
201号室で行われるパーティーでの撮影では、どこを切り取っても素敵な背景になるでしょう。
また、結婚披露宴やパーティーに参加しなくても、日常でも併設のレストランで食事と一緒に空間を楽しむことができます。
旧談話室の「LATIN」では、高い天井と格調高いドレープカーテンで飾られた大きな窓があり、シックでゆったりと食事を楽しめます。
皆様も気軽に食空間とともに昭和初期の交流施設の建築を楽しんでみてはいかがでしょうか。
学士会館
東京都千代田区神田錦町3丁目28
FSPJ認定コーディネーター
田中 宏美(HIROMI TANAKA)